2016年映画ベスト10

 2016年は映画大豊作の年だった。どうしちゃったの。

映画を見に行く側としては、どの映画を切ってどの映画を観に行けばいいのかの判断がすごい難しくなったし、チャレンジ感ある上映をしているミニシアターから足が遠のいてしまったような気がする。

だってヒューマントラストの未体験ゾーン特集とか、シネマカリテのカリコレなんかに行ってる場合じゃないくらい期待作目白押しなんだもの。それに加えてネット限定公開の映画やDVDスルー作品、最近やけに力の入っているドラマシリーズなど、そろそろ体力尽きた映画オタクがバタバタと倒れていくんじゃないかというくらいのコンテンツの充実ぶり。

ミニシアターもシネコンに対抗して各種イベントを催すようになり、時間もお金も足りません。それでたまに反省して、思わぬ拾いものを拾いにイメージフォーラムユーロスペースあたりに遠征して大火傷をしてくるのも、大事な映画体験だと思います。

 

さてさて、そんな盛り上がりを見せてる映画界隈、オタの明日はどっちなのかは分からないけれども、誰か最近はやりの映画コンに参加してきて感想を教えて頂けないものだろうか。これだけ複雑になっている映画界隈で、オタとオタは分かり合えるのだろうか。

毎年恒例のベスト映画、例年は5位までしか選ばないんだけども、今年は世間にならって10作品を選んでみました。(というか絞り切れなかった。今年はベスト20くらいでも良いくらい)その時々の気分で平気でランキングが乱高下する適当なランキングなので軽い気持ちで見てやってください。

 

映画秘宝とかキネ旬のベストと比べてみよう!

 

10位 「続きをしよう」 ※鬼談百景より

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「慚残」のスピンオフ短編集に収録の「続きをしよう」が恐ろしく出来が良かった。

墓地で勢いよく走りまわる大勢の子供たち。思いっきり転んだり、倒れてきた墓石の下敷きになったりと、1人また1人と大怪我をして帰っていく(かなりのゴア描写!)が遊びが終わる様子はない。次々と血まみれで笑顔で帰っていく子供、残って遊ぶ子供たちの表情が徐々に曇っていく。大怪我をしないと帰れない。このまま墓地に残ってしまうとどうなってしまうのか。短編映画とは思えない引き込みぶりで画面から目が離せなくなる。とうとう最後の1人になってしまった子供の前に・・・・例のアレが!

ホラー映画が怖いって思ったのはずいぶんと久しぶり。必要以上に爽快なスプラッタ―音と子供の笑顔が見事に不快。

ラストのあのシーンは演出力に自信がないとそうそう撮れないシーンだと思うんだけれども、良い監督に恵まれた作品だなぁと。

 

内藤瑛亮監督はデビュー作の「先生を流産させる会」で扱ったテーマが嫌いという理由だけで喰わず嫌いしていたけれども、本作を機にキチンと過去作も鑑賞しました。きっと数年もしたら邦画の大作映画を任されるんだろう。

さっそく映画じゃなくてホラーオムニバスビデオを入れてしまった。

 

9位 「シン・ゴジラ

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要は「ゴジラ」では無くて、夢にまで見た新井英樹の怪獣漫画「ザ・ワールド・イズ・マイン」の実写映画版なんだよね。

突如現れた怪獣に振り回される政府、それこそ首相から末端の公務員までを群像劇として描いた傑作漫画を、マイルドにかつアニメチックに庵野風の味付けにしてみました的な作品。「ザ・ワールド・イズ・マイン」を読んだ時の興奮が想起されるくらいにはよく出来ている映画だったかなと。

でもでも深作版の「シン・ゴジラ」が僕は見たいよ!(深作欣二が晩年に「ザ・ワールド・イズ・マイン」の実写化を目論んでいたとか)

 この映画、恐ろしく編集のテンポが良いのでただの会話シーンでもとても爽快感があるんだけど、これを往年の日本映画の演出テンポへの回帰・オマージュだと誉めている評論もあるけれども、どちらかというと深夜アニメのノリで演出しているんじゃないかなと思ってみたり。。。

 

庵野版の「実写キューティーハニー」を僕は昔大絶賛したので、「シン・ゴジラ」でもやってくれると信じてた。でも発生可能上映で「見せてもらおうか!庵野の実力とやらを!!」ってみんなで叫ぶのは、やっぱり恥ずかしいと思うぞ!

 

8位「星くず兄弟の新たな伝説」

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 東京国際映画祭のオールナイトで鑑賞。劇場公開はもう少し先になりそう。

手塚眞監督の「星くず兄弟の伝説」の30年ぶりの続編!という全くキャッチ―さの無いキャチコピーだけれども観てよかった。

自主映画の方が商業映画よりも面白いと言うわけでは無いけれども、自由に好きな物が撮れるのは間違いなく自主映画。自分が出資者だったら絶対に止めるようなとんでもない展開も監督が好き勝手に次々と作品に放り込んでくる。(本作は正気を疑うレベル)

監督が好き勝手にやっている作品なので、波長が合うか合わないか!好きか好きじゃないかだけの話なので、自分としては最高の作品だったけど他人に勧められるかどうかは自信が無い。

自主映画で商業映画の縮小再生産映画を作っている人にぜひ見てほしい。

クラウドファンディングで200万円払うとCGで作中に登場できるらしいんだけど、これは正直アリだと思う。お金ないけど。

a-port.asahi.com

  

7位「蜜のあわれ

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二階堂ふみちゃんが可愛い。

とても可愛い。

金魚の精霊ふみちゃん。

 「狂い咲きサンダーロード」「爆裂都市」を抑えて、石井岳龍監督最高傑作!

週1で見返したくなる可愛さ!

 

6位「エンド・オブ・キングダム

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 祭りだ!祭りだ!

ハリウッドが潤沢な予算をつぎ込んで作ったフェスティバルムービー第二弾!各国首脳が次々と盛大に暗殺されるシーンや、あくまで人海戦術と力技でロンドン中を襲撃するテロリストたちなど、盛り上がれば細かい事はいいんだよ!というマインドがスクリーンからあふれ出ている今年一番のほっこり映画。

前作の北朝鮮ホワイトハウスに攻めてくる展開も大好きだけれども、今回は建物ではなくロンドン中の市街地が戦場なので、より盛大なフェスティバルが楽しめる趣向となっている。正直ドラマパートは一切記憶に残っていないので、前作の設定とかキャラとかよく分からないし、今回仰々しく死んだアイツが誰だったかのかも良くわからなかったけど、細かい事は気にしちゃ祭りは楽しめないんだ。

 

アントワン・フークワ監督が今回外れたので、作品のテイストが変わってしまうのを懸念したけれども、ビックリするくらい何も変わっていなかった。どうなっているんだ。

続編もあるらしいので期待大。

ハリウッド毎年の恒例行事として永遠に作り続けてほしいシリーズ。

鉄砲バキューン!爆弾ドカーン!

 

5位「葛城事件」

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スーサイド・スクワッド」に出てくる犯罪者軍団より、よっぽど怖いよ三浦友和

監督の赤堀雅秋さん演出のお芝居を以前観たときに、日本の一般家庭の中にあるジメジメとして不穏で嫌な感じを表現するのが上手い人だなぁと思ったけれども、映画監督としての手腕も高かったようで日常系映画の極北ともいえる完成度。(不快指数マックス!未確認生命体マックス!)

とにかく出てくる飯が全部不味そう。

 レンタル屋での本作のジャンルがホラーじゃなくてドラマになってるんだけども、心に傷持つ家族の再生の話と勘違いしてみんなに借りてほしい。みんなもトラウマになればいい。

 

監督の前作「その夜の侍」も個人的には大ヒット。

劇団も活動休止してるみたいだし、このまま映画監督一本でいくのも有りだと思う。

  

4位「サウルの息子

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トラウマ映画といえば「サウルの息子」も生涯ベスト級のトラウマ映画。(葛城事件と違って良いトラウマ)

強制収容所で働くユダヤ人が、死んだ息子の埋葬をするために奔走するというストーリー的な面白さはもちろんの事、この手の映画としては考えられないくらい斬新な撮り方(全編ピンボケで肩越しからのスタンダードサイズ撮影)をしていて、かつそれが上手くいっているという稀有な例。いや奇跡。

「携帯電話で撮影しました」「全編ワンカットで撮りました」といった撮影技法を売りにしている作品の多くが手法ありきで作られているのに対して、この映画を撮るにあたってはこの技法以外は考えられないほど、作品のメッセージと撮影技法が融合していた。正直、作品世界に入り込み過ぎて途中から逃げたくなった。

 

ネメシュ・ラースロー監督が同じ撮り方で作った短編映画「With A Little Patience(原題:ちょっとの我慢)」も中々に強烈。

 ホラーも怖いけどホロコーストも怖いよ怖いよ。

  

3位「神様メール」 

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ジャコ・ヴァン・ドルマル監督の映画は、いつも観終わった後に口ポカーンで「オッサン好き勝手な映画作りやがって!」(誉めている。)となる事が多いんだけれども、今回も最高だった。

お話の唐突さ、カトリーヌ・ドヌーブがゴリラと付き合うあたりの説得力の無さとか(ゴリラっぽいオバサンって以外の理由が見当たらない)ラストの奇跡のくだらなさとか、今回も監督の頭の中にあるイメージだけで映画一本やり切ったね、と心の中で拍手喝采。細かい事はいいんだよ!(重要)

ベルギーはジャコ・ヴァン・ドルマル監督に好きなだけ予算を与えて、自由に映画を撮らせ続けるべきだと思う。 

 まさかのTOHO系映画館でがっつり全国公開されていたから、ポップで可愛いガールズムービーをイメージして観に行った人が沢山いたんだろうな。

自分の突いてほしいツボを存分に押して貰えたので、これはDVD買っておこうと思う。

 

 2位「みかんの丘」

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コーカサスの国グルジアで起きた紛争を背景に人間の尊厳を描いた小品。

語り口がとにかくスマート。テーマが難解だからといって映画自体を殊更に難解にする必要は無いよなと感心。作劇的な起伏、登場人物に舞台設定などを極限まで削ぎおとして、キレイに作品の本質だけが残ったような、下手をするとテレビドラマ並みに平坦になりかねないところを演出で見事にカバーしていて信じられない。アブハジア紛争に興味が無い人でも、紛争と人間について少なからず何かを感じ取れる事ができるはず。

馬鹿にも薦められる紛争映画ってキャッチコピーを付けたい←

こういう万人向けの映画こそ、岩波の客層じゃなくてピカデリーのみんなに観てほしいんだけど、どうすればよいんだ。

岩波のご年配方だけの映画にしておくのは本当にもったいない。

 

 岩波つながりで、エルマンノ・オルミ監督の新作「緑はよみがえる」が、観たときはそこまでではなかったけど、余韻がいつまでも尾を引く良作だった。今回の監督賞はオルミで。

  

 1位「この世界の片隅に

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の、のんちゃーん

あらゆる人が全方向から誉めているんで、僕としては何も付け加える事が無いんだけれども。きっとこの作品はこれから何年後かにテレビ放送されて、国民的なアニメとしてジブリ作品同様に日本中から愛される作品になるんだろうなって確信してる。

今まで映画上映後にスクリーンに向かってする拍手って意味ないなと思ってたけど、この作品に関しては上映終了後に無心で拍手をしてしまった。

そういえば映画館で同じ映画を2回観たのは初めて。 

何も言わずにみんなももう1回観に行こう!

  

以上。

2016年は楽しみな映画が多すぎて人生で一番映画館に行った年だと思う。

基本雑食系で色々見ているけれども、「スーパーヒーロー映画は見ない」「邦画の自主映画はそんなに追わない」「旧作は必要に応じて観る」あたりの心理的ブレーキがまだ僕にはあるので(ガバガバだけど)本当に何でも観る映画オタの人は、今年過労で死んじゃったんじゃなかろうか。

「ポッピンQ」とか「スラヴォイ・ジジェクの倒錯的映画ガイド」とか「ディーパンの闘い」とか「クーパー家の晩餐会」どか、語り始めると終わらないほどまだまだ良作が沢山あった年だったので、2017も良い映画に沢山巡り合えると良いと思います。

さすがに観る本数は減らそうかなと。

 

2016年映画ベスト10 

1「この世界の片隅に

2「みかんの丘」

3「神様メール」

4「サウルの息子

5「葛城事件」

6「エンド・オブ・キングダム

7「蜜のあわれ

8「星くず兄弟の新たな伝説」

9「シン・ゴジラ

10「鬼談百景」